膜性腎症についてのお話

膜性腎症の病理
・・・腎臓病雑誌より抜粋・・・

膜性腎症とは、腎糸球体係蹄の上皮側に免疫複合体が沈着することにより惹起される糸球体疾患であり、種々の程度で基底膜の肥厚を示すことを組織的特徴とする。特発性膜性腎症の原因抗原を、長い間多くの研究者がさぐり続けてきた。これまでmegalinやneutral endopeptidase(NEP)の研究報告がなされたが、成人の特発性膜性腎症の発症に関与しているとする知見には至っていない。最近、ヒトの特発性膜性腎症の多くに足細胞に局在するphospholipase A2 receptor (PLA2R)と反応するIgG分画があることが報告され、原因抗原として大きな注目を集めている。・・・中略・・・ 膜性腎症の病理像を振り返り、臨床像や経過との関連のもとに再考察を加えたい。

特発性膜性腎症の病理組織像
1. 光顕像と電顕像の対比
膜性腎症の腎糸球体基底膜(GBM)の上皮側に免疫沈着物が出現することが本症の基本病変であるが、それに伴う基底膜の反応性変化が加わり、基底膜は種々の程度の肥厚を示す。本症の病理に関しては、EhennrichとChurgのStage分類が多く用いられている。この分類は電顕所見を基にしたものであるが、ここでは光顕像と対比させて述べる。
Stage 1:本症の初期においては糸球体基底膜の上皮下に高電子密度の沈着物(deposit)を認めるが、多くは小型であり基底膜の反応性変化も乏しい。そのため光顕上は、HE染色やPAS染色では基底膜の肥厚として捉え難く、微小変化群として扱われやすい。このような時期でも、Masson染色で赤橙色のdepositとして見出せることがある。
Stage II:depositが基底膜上皮下に多く分布するようになり、基底膜緻密層から伸びた突起がdeposit間に認められる。光顕的には明らかな基底膜の肥厚として認められる。基底膜のdeposit間の突起はPAM染色でも染色され、スパイク(spike)と呼ばれ、本症の光顕的特徴の一つにあげられる。また、PAM染色での正接方向にきれた基底膜のdeposit部が銀に染まらないため欠損部として描出され、bubbling(泡つぶ状変化)を示す。
Stage III: depositが新生基底膜で包み込まれ、depositは基底膜内に見られるようになり、電子密度が低下し、顆粒状あるいは空胞状になる。このように基底膜内にdepositが取り込まれlucentになっていく状態をwash outと呼ぶ。基底膜はさらに肥厚し、光顕的にPAM染色でbubblingに加えて、鎖状の変化や二重化像を示す。
Stage IV: depositはほとんど消失し、わずかにlucentあるいは空胞状のものが散見される程度となる。基底膜の肥厚は持続するが、経過とともに経度となる。Depositの新たな供給がなければ、基底膜は修復され正常化していく。光顕上は不規則な肥厚を伴い、やがて正常の基底膜の厚さを示すようになる。各Stageのdepositが混在することも多く、免疫複合体の持続的供給を示唆する。

2. 蛍光抗体法
蛍光抗体法ではIgG3およびC3がびまん性に係蹄壁に沿って顆粒状に沈着する。感染症や膠原病などによる続発性膜性腎症では、IgG、C3以外にもIgA、IgM、C1q、C4などが沈着することがある。なかでも特にC1qの沈着はSLEなどの続発性膜性腎症を示唆する所見である。IgGサブクラス染色は、特発性と続発性の鑑別にしばしば有用である。免疫複合体を形成するIgGのサブクラスとしては、特発性膜性腎症ではIgG4が優位となることが多い。膜性腎症はIgG4関連疾患であるという見方もある。腫瘍関連膜性膜性腎症では、IgG4に加えてIgG1,IgG2が有意に高い陽性率を示し、また、ブシラミン関連ではIgG4に加えてIgG2,IgG3が陽性を示す傾向があると報告されている。

特発性膜性腎症におけるdepositの経時的変化
  ヒトの膜性腎症の基底膜病変がどのような時間経過で変化していくのかについての報告は少ない。・・・
1. ネフローゼ症候群例
特発性ネフローゼ症候群例のStageの経時的変化を図4に示した。初回生検時のネフローゼ症候群例の経時的変化を図に示した。初回生検時のネフローゼ症候群の時期にすでにStageII以降のものも多い。個々のdense depositがwash outし始めるStageIIIに至るまでの期間は1年から2年と思われる。蛋白尿が1日0.5g以下となるまでの期間は、早い例では発症から1年であるが、5年以上を経過してもなお中等度の蛋白尿(0.5g~3.5g/day)が持続する症例もある。この場合、古いdepositに新しいdepositが混在する。形態的に糸球体基底膜が正常化するには、多くの場合4,5年以上が必要と思われる。ステロイドなどの薬剤治療はこのようなdepositの経時的変化を加速させると考えられる。
2. 非ネフローゼ症候群例
膜性腎症のなかには軽度の尿異常のみで経過する症例も含まれる。このような非ネフレーゼ型の膜性腎症をみると、小型のdepositのままで経時的に変化し、基底膜の肥厚を示さない軽症型の膜性腎症が多い。Depositが小さいほど寛解導入までの期間が短いとする報告もあり、turn overの期間も短いと思われる。

続発性膜性腎症におけるdepositの経時的変化
  続発性膜性腎症は特発性とは異なる病理像を示す場合が多い。続発性膜性腎症については他稿で詳しく述べられているので、ここでは病理組織的経過と鑑別点について簡単に触れる。膜性ループス腎炎は上皮下のほかに、内皮下やメサンギウムにdepoositを伴う事が多い。また、大小不規則な形のdepositを示し、経時的にもdepositが空胞状になるよりも顆粒状化することが多い。金剤、D-penicillamineなどの薬剤や悪性腫瘍による膜性腎症では、depositは小型で、生検時には早期(stage I)のdepositであることが多い。薬剤中止や腫瘍摘出により、速やかに寛解に至る。その場合も特発性と同様の経時的変化を示すが、そのサイクルは短いと考えられる。ウイルス性肝炎では免疫複合体沈着型の糸球体腎炎を呈することがあり、B型C型ウイルスのいずれも膜性腎症を呈しうる。上皮下のdepositの形態は多彩であり、経時的変化はメサンギウム増殖やメサンギウム間入などで修飾され、膜性増殖性腎炎との鑑別が困難なことも多い。

他疾患に合併する膜性腎症
特発性膜性腎症に他の腎疾患が合併し診断を困難にすることはしばしば経験する。ここでは主な合併例を示す。
1. 糖尿病性腎症と膜性腎症
膜性腎症を合併する腎疾患としては糖尿病性腎症が最も多いと考えられる。糖尿病早期のネフローゼ症候群では膜性腎症の合併を鑑別する必要がある。糖尿病に合併した膜性腎症の経時的変化をみると、発症時には肥厚した基底膜上にdense depositが認められ、経過するとdepositはless denseとなり、新生基底膜を伴うようになるが、このような経時的変化は本来の糖尿病性変化である肥厚した緻密層には及ばないことが多い。
2. IgA腎症と膜性腎症
IgA腎症に膜性腎症が合併する症例もしばしば見られる。メサンギウム増殖を背景にして種々の程度で基底膜の肥厚を伴ってくる。電顕的には上皮下とメサンギウムにdepositを有することから、二次性の膜性腎症との鑑別が問題となる。蛍光抗体法でメサンギウム沈着がIgA優位であることと、臨床的事項が鑑別上のポイントになる。
3. 半月体形成性腎炎と膜性腎症
細胞性半月体の形成が膜性腎症に出現することもあり、臨床的には急速に進行していく。両者の合併には3つのタイプがある。第1のタイプは抗GBM抗体腎炎との合併であり、蛍光抗体法ではIgGのGBMに沿った線状の沈着にIgGとC3の顆粒状の沈着を示す。第2のタイプはANCA関連腎炎との合併である。しかし、単なる合併ではなく、係蹄壁のdepositの中にmyeloperoxidase(MPO)が局在する症例も含まれ、MPO-ANCA関連腎炎におけるMPOが続発性膜性腎症の原因となる可能性が示唆される。第3のタイプは上記2疾患(抗GBM抗体型腎炎とANCA関連腎炎)がない場合であり、半月体の形成機序は個々の症例で異なると考えられる。

4. 菲薄基底膜病と膜性腎症
菲薄基底膜病に膜性腎症が合併することがあり、びまん性に菲薄化した基底膜上に小型のdepositが連続性に、あるいは散在性に見られる。臨床的にはネフローゼ症候群を呈することもあるが、軽度蛋白尿と血尿で経過することが多い。光顕的には微小変化に含まれることが多く、確定は蛍光抗体法と電顕による検索が必要です。

膜性腎症の組織診断上の問題点
  膜性腎症は糸球体基底膜の上皮側に免疫複合物が沈着することにより、基底膜の肥厚を示す糸球体腎炎であり、典型例では診断は容易なことが多い。しかも、蛍光抗体法や電顕による検索が行われ、鑑別診断上問題になることは少ない。むしろ、一次性と二次性膜性腎症との鑑別、あるいは、他疾患の合併が診断上の問題となっている。この点についてはすでに述べたが、ここでは実際の診断に際しての問題点について記す。
1. 糸球体基底膜の肥厚が明らかでない場合。
早期の病変では、光顕切片のみでは診断が困難なことが多く、蛍光抗体法での免疫染色で確認ができない場合には注意を要する。このような場合でも、Masson染色での上皮下のdepositやPAM染色でのbubblingを観察できることもある。臨床的には、非ネフローゼ型の蛋白尿の症例や二次性膜性腎症が含まれることが多い。
2. 増殖、硬化像を伴う場合
増殖性変化を伴う膜性腎症では、二次性膜性腎症の可能性を検索すべきである。ループス腎炎ではメサンギウム増殖や管内増殖をともなう。肝炎ウイルス(HBV/HCV)関連腎炎では膜性腎症と膜性増殖性腎炎(以下, MPGN)のいずれの像もとりうることから、両者の鑑別には電顕検索が望まれる。
また、循環障害による糸球体硬化病変が出現し、MPGN類似の像を示すこともあり、注意を要する。さらに前述のように他疾患が合併し、糸球体基底膜の肥厚に加え増殖や硬化像を伴い、診断を困難にすることもある。
3. 半月体を伴う場合
半月体を伴う場合には、MPGNあるいはループス腎炎などの二次性膜性腎症との鑑別を要する。また前述のように、半月体形成性腎炎との合併も考慮に入れて検討する必要がある。
・・・・・以下略
2012/10/02(Tue) 23:57:36 | 医院からのお知らせ

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院長
神戸市垂水区の佐々木内科医院では「あなたの腎臓を守りたい。地域のホームドクターへ」をモットーに腎臓専門医として地域のみな様の健康を守りたいと考えています。

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