ジョスリンメディカルセンター(ハーバード大学付属病院)からのお知らせ(2011年5月19日付)

Tale of Two Mice Pinpoints Insulin Resistance Factor
C. Ronald Kahn, M.D., senior author on the Journal of Clinical Investigation paper
インスリン抵抗性因子をピンポイントで示した2種類のマウス

The road to type 2 diabetes is paved with insulin resistance, in which the hormone begins to fail at its job helping to convert sugars to energy. Joslin researchers have now identified an enzyme called PKC-delta as an important molecular modifier for development of insulin resistance, diabetes and fatty liver in mice. They also have found evidence suggesting a similar role for the enzyme in humans, making PKC-delta a promising new target for drugs for diabetes and related ailments.

2型糖尿病への道はインスリン抵抗性で舗装されている。インスリン抵抗性において、インスリンという内分泌ホルモンは糖質をエネルギーに変換することを助ける仕事を完遂できなくなるのだ。ジョスリンの研究者らは現在PKC-δと呼ばれる酵素がマウスモデルにおいて脂肪肝・糖尿病・インスリン抵抗性の発現の重要な修飾分子であることを発見した。彼らはまたヒトの酵素PKC-δについても同様の役割を示唆するエビデンスを発見したのだが、このことは糖尿病や関連疾患の薬物治療の確実な新しい標的がPKC-δであることを示している。

Investigators in the laboratory of C. Ronald Kahn, M.D., began with two existing strains of mice that are on opposite sides of the spectrum for insulin resistance. “The ‘B6’ mouse is very prone to develop both obesity and diabetes, and the ‘129’ mouse is quite protected from both, even if it possesses a genetic defect in insulin signaling,” says Dr. Kahn. “Comparing the two models, it’s as if there’s an on/off switch for insulin resistance and diabetes between them. We reasoned that if we could find out the differences between B6 and 129 mice, we could identify a factor that could be a major modifier of insulin resistance, and a good drug target for treatment of type 2 diabetes.”

カーン医師の研究室の研究者らはインスリン抵抗性について正反対の性質をもつ2株のマウスの解析から始めたのだ。カーン医師によれば “そのB6マウスは肥満や糖尿病に極めてなりやすく、そしてその129マウスはこの両疾患から大変強く守られているのだ。たとえ、その129マウスがインスリンシグナルに遺伝的欠損を持っていたとしても。”そして、“この2種類のマウスモデルを比較すると、この2種類のモデルマウスの間に、あたかもインスリン抵抗性と糖尿病に対するオン・オフスイッチがあるように見える。我々は推論した、もしもB6と129マウスの相違を明らかにすれば、インスリン抵抗性の主要な修飾因子、ならびに2型糖尿病の薬物療法の良い標的を同定できると。

In previous work, the Kahn lab created a genetic cross between these two mice
models, did a genome-wide screening and found an area on mouse chromosome 14 that appeared to be important for insulin sensitivity. In the latest paper, published online in the Journal of Clinical Investigation, they followed up and found that PKC-delta stood out in activity among the genes in that region.

過去の研究で、カーン医師の研究室ではこれら2株のマウスを交配して、ゲノム全体をスクリーニングし、マウス第14番染色体上にインスリン感受性に重要な領域が存在することを発見したのだ。最新のJCIに発表した論文で、彼らは探索し、そしてPKC-δがその活動性においてその領域で突出していることを発見したのだ。

The researchers then showed that levels of the PKC-delta enzyme were about two times as high in the liver and other tissues in the B6 as in the 129 mouse. When both types were put on high-fat diets, levels of the enzyme stayed the same in the 129 mouse but rose to three times higher in the B6 mouse.

研究者らはそれから、PKC-δ酵素のレベルが129マウスに比べB6マウスで、肝臓と他の組織において約2倍であることを示した。

Could these differences be enough to make the profound change in insulin sensitivity? Creating three more mice models, the scientists found that PKC-delta levels correlated closely with insulin resistance and the abnormalities in glucose tolerance in all three cases. Insulin resistance also correlated with increased fat in the liver, an increasing problem in people with insulin resistance.

これら2種類のマウスにおけるPKC-δ酵素の相違が、インスリン感受性の深刻な変化を形成するのに十分なものであろうか?研究者らはさらに3種類のマウスモデルを作成して、PKC-δレベルがインスリン抵抗性や耐糖能異常とこれら3種類のマウスモデルすべてで密接に相関することを発見した。

Biopsies of human liver tissue, Dr. Kahn says, showed that levels of the enzyme are heightened in people who are obese or have diabetes. “People with diabetes tend to get fatty liver and that also seems to correlate with the activity of PKC-delta,” he adds.

カーン医師によれば、ヒト肝臓の生検によって、PKC-δ酵素のレベルは肥満者や糖尿病患者で高くなっていることが明らかにされた。カーン医師は、糖尿病患者さんでは脂肪肝になりやすく、その脂肪化はPKC-δ酵素の活性と相関するようであると付け加えた。

“Drugs that inhibit the activity of PKC-delta in the liver and other tissues potentially could aid treatments for diabetes and fatty liver disease, which is second only to alcohol as a cause of liver failure,” Dr. Kahn says.

カーン医師によれば、肝臓や他の組織においてPKC-δ活性を抑制する薬物は、潜在的に糖尿病や脂肪肝の治療に役立つ可能性がある。また脂肪肝はアルコールに次いで肝不全の原因である。

Lead author on the paper is Olivier Bezy. Other Joslin contributors include Thien T. Tran, Ryo Suzuki, Brice Emanuelli, Jonathan Winnay, Marcelo A. Mori, Joel Haas, Sudha B. Biddinger, Allison B. Goldfine, Mary-Elizabeth Patti, and George L. King. The research was supported by the National Institutes of Health, the American Diabetes Association and the Mary K. Iacocca Professorship.

この論文の指導的著者はオリバー・ベズィーである。他のジョスリン医療センターの協力研究者は表記した。この研究はNIH・米国糖尿病学会・Mary K. Iacocca Professorshipによる支援を受けた。

多発性嚢胞腎診療指針 ダイジェスト版

多発性嚢胞腎診療指針 ダイジェスト版
厚生労働省難治性疾患克服事業進行性腎障害に関する調査研究班
多発性嚢胞腎分科会

I ADPKD診療指針
1.疾患概念と定義:常染色体優性多発性嚢胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease: ADPKD)は、PKD遺伝子変異により両側腎臓に多数の嚢胞が進行性に発生・増大し、進行性に腎機能が低下し、70歳までに約半数が末期腎不全に至る。
遺伝形式:常染色体優性型であり、性別に関係なく遺伝する。家系に本疾患が存在せず突然変異として新たに発症する場合もある。
原因遺伝子:85%の患者がPKD1(16p13.3)、15%の患者がPKD2(4q21)遺伝子変異をもつ。
発症機序:優性遺伝性疾患であり、遺伝的に変異のあるPKD遺伝子に加えて、正常なPKD遺伝子に生後変異(体細胞変異)が起こると、尿細管細胞の増殖が起こり、やがて嚢胞になると考えられている。
2. 診断基準
1) 診断基準
多くは家族歴があり、画像検査(超音波・CT・MRIなど)において両側の腎臓に多発する嚢胞を認め、診断は容易である。診断時に家族歴を認めない場合が少数例に認められるが、特徴的な嚢胞形態が認められれば診断できる。
表1にADPKD診断基準(厚生労働省進行性腎障害調査研究班「常染色体優性多    発性嚢胞腎診療ガイドラン(第2版)」)を示す。
表1 ADPKD診断基準(厚生労働省進行性腎障害調査研究班「常染色体優性多発性嚢胞腎 診療ガイドライン(第2版)」
1. 家族内発生が確認されている場合
1) 超音波断層像で両腎に各々3個以上確認されているもの。
2) CT,MRIでは両腎に嚢胞が各々5個以上確認されているもの。
2. 家族内発生が確認されていない場合
1) 15歳以下ではCT,MRIまたは超音波断層像で両腎に各々3個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合。
2) 16歳以上ではCT,MRIまたは超音波断層像で両腎に各々5個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合。
除外されるべき疾患
多発性単純性腎嚢胞multiple simple renal cyst
尿細管性アシドーシスrenal tubular acidosis
多嚢胞腎multicystic kidney (多嚢胞性異形成腎multicystic dysplastic kidney)
髄質嚢胞性疾患medullary cystic disease of the kidney(若年性ネフロン癆jyuvenile nephronophthisis)
多嚢胞化委縮腎(後天性嚢胞性腎疾患)acquired cystic disease of the kidney
常染色体劣性多発性嚢胞腎autosomal recessive polycystic kidney disease
2)海外の診断基準との比較
  表2にRavineの診断基準(1994年)、Peiの基準(2009年)を示す。
表2  ADPKDの超音波断層像による診断基準
    Ravineの診断基準
    15-29歳:嚢胞が2個以上(両腎あるいは片腎);陽性予測値99.2%、陰性予測値87.7%
   30-39歳:両腎に各々2個以上;陽性予測値100%、陰性予測値87.5%
40-59歳:両腎に各々2個以上;陽性予測値100%、陰性予測値94.8%
>60歳:両腎に各々4個以上:陽性予測値100%、陰性予測値100%
Peiの適格診断基準
    15-29歳:嚢胞が3個以上(両腎または片腎):陽性予測値100%、陰性予測値85.5%
30-39歳:嚢胞が3個以上(両腎または片腎):陽性予測値100%、陰性予測値96.4%
40-59歳:両腎に各々2個以上:陽性予測値100%、陰性予測値94.8%
>60歳:両腎に各々4個以上:陽性予測値100%、陰性予測値100%
Peiの除外診断基準
    15-29歳:嚢胞なし:陽性予測値96.6%、陰性予測値85.5%
30-39歳:嚢胞なし:陽性予測値94.0%、陰性予測値98.3%
40-59歳:嚢胞が1個以下(両腎あるいは片腎):陽性予測値96.7%、陰性予測値100%
3)診断に必要な検査
  表3にADPKD診断における必須項目ならびに検査を示す。
  表3 ADPKD診断における必須項目ならびに検査
1. 必須項目
1) 家族歴:腎疾患(透析移植を含む)、頭蓋内出血・脳血管障害
2) 既往歴:脳血管障害、尿路感染症
3) 自覚症状:肉眼的血尿、腰痛・側腹部痛、腹部膨満、頭痛、浮腫、吐気など
4) 身体所見:血圧、腹囲(仰臥位で臍と腸骨稜上縁を回るラインで測定する)。心音、腹部所見、浮腫などにも注意を払う。
5) 尿検査:尿一般検査、尿沈渣。尿蛋白/尿クレアチニン比
6) 腎機能:血清クレアチニン値、推算GFR値
7) 画像検査:超音波検査(腹部)、頭部MRIアンジオグラフィ
2. 適宜おこなう検査
1)  血液・尿検査:動脈血ガス分析、24時間蓄尿による腎機能の評価
2) 身体所見:鼠径ヘルニア
3) 画像診断:核磁気共鳴断層法(MRI)、コンピュータ断層撮影(CT)、心臓超音波検査、注腸検査
4)画像検査
  超音波断層法:診断と評価のための基本的画像検査法。直径1cm以上であれば腎嚢胞を同定することが可能である。腎臓の嚢胞の程度、腎臓の大きさ、腎結石の有無、肝臓・膵臓・脾臓・卵巣の嚢胞性疾患の有無を評価する。
  CT・MRI:超音波の補助的検査法。ADPKDの進行度の評価は腎機能より腎容積で行うほうが適切であるとも報告されており、腎容積測定による経過観察には単純CT(造影は必須ではない)あるいはMRIが適切である。
  頭部MRIアンギオグラフィ(MRI):頭蓋内動脈瘤のスクリーニングに行う。
5)鑑別診断
  多発性単純性腎嚢胞、後天性嚢胞性腎疾患、結節性硬化症、常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)などの鑑別すべき疾患を鑑別する。
6)遺伝子診断
  原因遺伝子であるPKD1, PKD2の遺伝子解析は容易ではなく、発症前診断の有用性は認められていないため、一般的にADPKDの診断を目的とした遺伝子検査は行わない。
7)小児ならびに若年者での診断
 有効な治療法がない現時点では、小児ならびに若年者に対する診断を積極的に行う根拠は少ない。しかし、小児ならびに若年者から高血圧を認める場合もあること、小児で高血圧を発症している患者は正常血圧患者と比べて有意に腎臓が大きくなること、早期発症の重篤な例も少数認めることから、一般健康診断としての血圧測定や検尿は行い、画像診断は家族より求められた場合には行ってもよいと思われる。
3.疫学
 ADPKDの頻度は3000-7000に一人と考えられている。本邦の透析患者における導入原疾患別割合では2-3%を占める。典型的な常染色体優性遺伝形式を示し、男女差はない。PKD1遺伝子変異が多く、本邦のADPKD患者の78%はPKD1遺伝子変異である。ヨーロッパではADPKDの約85%がPKD1遺伝子変異、残り約15%がPKD2遺伝子変異である。最近のCRISP研究における遺伝子変異解析でも同様であり、上記の疫学調査を裏付けるものであった。
4.臨床的特徴
1)初発症状
 ほとんどが30-40歳代まで無症状で経過する。自覚的な初発症状として外傷後(体に衝撃を与えるスポーツによるものも含む)の肉眼的血尿、腹痛・腰背部痛、腹部膨満などがあげられる。他覚的には健診などで指摘される高血圧も初発症状(所見)として重要である。
2)腎症状
(1) 自覚症状
 疼痛:急性および慢性の腹痛あるいは側腹部痛はよくみられる自覚症状の一つである。急性の腹痛は、嚢胞感染や腎実質の感染、尿路結石、嚢胞出血が原因となる。慢性の腹痛は、より腎腫大が進行した症例に多く、腎被膜の進展や腎門部血管系の牽引が原因となる。ただし腎臓の重さによる脊椎や腰背筋の負担が慢性疼痛として自覚されることがあり、腎臓の局在とは無関係の部位の疼痛を訴えることも稀ではない。頻度的には腹痛(約60%)より腰痛(約70%)の方が多い。これらの嚢胞自体に由来する疼痛は、通常は非ステロイド系消炎鎮痛薬でコントロール可能である。
腹部膨満:腎腫大、肝腫大が著しく進行すると消化管を圧迫するために食欲不振、消化管通過障害、低栄養えお呈する。
(2) 尿異常
 血尿:肉眼的血尿は頻度の高い尿異常で本症経過中に35-50%の症例で認められる。ときに初発症状となることもある。その多くは、もともと血流に富む嚢胞を栄養する細血管からの出血、嚢胞の破裂が尿細管を含めた尿路へ流出することが原因である。嚢胞破裂による肉眼的血尿のほとんどは、床上安静と輸液などの保存的治療で数日以内に消失する。
 蛋白尿:主要な症状となることは少なく、軽度蛋白尿にとどまることが多い。
(3) 腎機能障害
 濃縮力障害:糸球体濾過率が正常な早期においても尿濃縮力障害をきたす。
 糸球体濾過値の低下、腎不全:多数-無数の嚢胞により腎腫大が顕著になるまで、糸球体濾過値はネフロンの代償のために正常である。40歳頃から糸球体濾過値が低下し始め、その低下速度は4-6ml/min/年といわれている。腎機能低下速度に影響する因子として下記の要因があげられている。
1. 遺伝因子(遺伝因子がPKD1の方がPKD2より進行が早い)
2. 高血圧
3. 尿異常(血尿、蛋白尿)の早期出現
4. 男性
5. 腎臓の大きさおよび腫大進行の速度
6. 左心肥大
7. 蛋白尿
5.治療
1) ADPKDに対する薬剤の臨床治験
 現在、嚢胞形成機序に対して作用する薬剤の臨床治験が行われている。
 バゾプレッシンV2受容体拮抗薬(トルバプタン):動物モデルにおいて嚢胞腎で増加するcAMPを減少させ、嚢胞形成を抑制する。国際的第III相臨床治験(Tolvaptan Efficacy and Safety in Management of PKD and outcomes(TEMPO))が進行中である。
 ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド):ソマトスタチン受容体に結合し、cAMPの産生を抑制し、嚢胞形成を抑制する。腎嚢胞以外にも肝嚢胞に対する抑制効果も認められている。海外で臨床治験が現在行われている。
 mTOR阻害薬(シロリスム、エベロリムス):PKD動物モデルならびにADPKD患者で腎移植後肝嚢胞の増大を抑制することが報告され、シロリムスとエベロリムスの臨床治験が欧州で行われたが、腎嚢胞増大と腎機能低下を改善する効果は認められなかった。
2)進行を抑制する治療
(1) 降圧薬療法
 高血圧を有する患者は正常血圧の患者より腎機能悪化速度が速いことが知られており、適切な降圧療法は進行を抑制する可能性があるので重要である。
(2) 飲水の励行
 嚢胞の進展にバソプレッシンを介したcAMPの増加が細胞増殖に関与していることから、水分負荷がバソプレッシンの分泌を抑制する機序が期待されており、水分摂取は十分に行うことが望ましい。しかし、過剰の水分摂取が嚢胞増大を抑制することは人間にて証明されていないこと、腎機能低下や心機能低下がある場合には溢水や低Na血症をもたらす可能性もあるので、医師の管理の下に行うことが望ましい。さらに脱水は腎機能悪化要因であり、尿路結石や尿路感染の予防のためにも、少なくとも渇水状態などのバソプレッシンの分泌刺激が維持される状況は避けるような生活習慣が望ましい。
(3) 蛋白制限食
 腎障害の進展抑制に蛋白制限食が行われるが、本症における有効性は確立していない。ただ少なくとも蛋白の過剰摂取は控えることが推奨される。
6.合併症とその対策
1)高血圧
 50-80%に合併する。腎機能障害のないときから認められ、発症年齢は本態性高血圧よりも若く、小児でも35%程度の頻度でみられる。成因としてはレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS, rennin-angiotensin-aldosterone system)の関与が強く示唆されており、嚢胞の進展により腎内の血管系の圧迫などによる虚血や髄質部障害などがRAASの刺激となっている可能性がある。
 治療:まず減塩が必要であり、塩分摂取量6g/日を目標とする。降圧目標値は日本高血圧学会高血圧治療ガイドラインに従って130/80mmHg未満が推奨される。厚生労働省の進行性腎障害調査研究班の研究結果で、ARB(angiotensin receptor blocker)はCCB(Calcium channel blocker)と比較して腎機能を悪化させる程度が少ないことが報告されており、第一選択薬としてARBを推奨する。降圧自体が腎機能の悪化を抑制するかどうかの明らかなエビデンスはない。心機能の悪化予防や蛋白尿、微量アルブミン尿の軽減には効果が認められており、間接的に心血管系合併症や腎機能への影響が示唆されている。そのため米国では降圧目標120/80mmHg未満とすることが推奨されている。
2)肝嚢胞
 肝臓は腎臓に次いで嚢胞の好発部位である。MRI診断では約85%の患者に肝嚢胞が存在し、加齢とともに数と容積が増加する。肝嚢胞の頻度は、女性では80-90%、男性では約80%である。男性に比較し女性、さらに経産婦において肝嚢胞の増大は顕著な傾向にある。
症状:通常無症状で肝機能障害を伴うことは少ないが、嚢胞感染や嚢胞内出血のために急性の腹痛・背部痛の原因となることがある。また著しい腹部膨満、横隔膜挙上による頻呼吸、消化管通過障害からの栄養障害、胆道・門脈系圧迫による門脈圧亢進症、黄疸などの肝障害が出現することがある。
治療:嚢胞ドレナージ術、嚢胞液吸引と硬化剤注入療法、肝動脈塞栓術、(腹腔鏡下あるいは外科的)肝嚢胞開窓術、肝部分切除、肝移植なども考慮される。
3)脳動脈瘤、くも膜下出血
 ADPKDでは血管性中枢性神経障害(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、脳内血管障害など)の頻度が一般より高い。脳動脈瘤の頻度は、一般人口では1%であるが、ADPKDでは脳動脈瘤の家族歴のある場合で約16%,
家族歴のない場合でも約6%の高頻度であると報告されている。さらに脳動脈瘤破裂の頻度は、ADPKD患者全体で約1/2000人・年であり、一般に比べて約5倍の頻度である。脳動脈瘤破裂による死亡率はADPKD患者の4-7%である。くも膜下出血の発症年齢は、平均年齢は41歳で一般の51歳に比して有意に若いことなどが報告されている。
特徴:部位としては、一般に内頸動脈に多いが、ADPKDでは中大脳動脈と前交通動脈に多い。大きさは比較的小さく、ほとんどは10mm以下である。脳動脈瘤破裂患者の特徴として、家系内集積する傾向がある。また54%の症例で腎機能が正常の時に、26%の症例で血圧が正常範囲であるにも関わらず破裂している。
スクリーニング:対象としては、至死的合併症であるため、ADPKDの診断がなされた時点でMRAを施行するのが望ましい。スクリーニング検査の間隔は、10mm以下の動脈瘤で家族歴のない場合であっても0.05%/年の割合で破裂するという報告もあることから、3-5年間隔で検査することが望ましい。
未破裂動脈瘤の経過観察ならびに治療:破裂脳動脈瘤の大きさは5mm未満で19%,5-9mmで33%,10-24mmで26%,25mm以上で22%という報告があり、サイズの小さな動脈瘤でも破裂の危険はある。このため未破裂動脈瘤が発見された場合には脳外科へ紹介する。治療として外科的クリッピングとコイル塞栓術を比較すると、合併症はコイル塞栓術の方が少ないが、長期予後は外科的クリッピングの方がよいとされている。
4)嚢胞感染
 30-50%のADPKD患者が経験する。閉鎖腔の感染のため難治性となり再燃を繰り返すこともあり、重要な合併症の一つである。
症状:一般的に高熱、腹痛(感染嚢胞に一致した限局性疼痛)を認める。原因はグラム陰性桿菌による感染が多い。
診断:細菌培養検査によるが、尿培養はしばしば陰性である。血液培養ならびに嚢胞穿刺液の培養が有用である。特定される起因菌としては大腸菌が多い。再燃を繰り返すこともあり、その場合は画像診断などで感染嚢胞を特定し、嚢胞ドレナージなどを積極的に行うことが推奨される。造影CTでの嚢胞壁の増強効果、MRIでT1強調画像(T1W1)、T2強調画像(T2W1)でより高信号を呈し、さらに拡散強調画像(DW1)で高信号が確認されれば診断はより確かになる。さらに最近ではFDG-PET/CTの有用性も報告されている。
治療:治療としては(1)抗生剤治療,(2)嚢胞ドレナージ法,(3)外科的治療がある。抗生剤は脂溶性の方が嚢胞内への透過性が良好であると報告されており、キノロン系、マクロライド系、テトラサイクリン系が好ましいが、水溶性のペニシリン系、セファロスポリン系、カルバペネム系抗生剤が有用な場合もある。
5)嚢胞出血
 嚢胞出血は嚢胞内血管の破綻による。疼痛や血尿が持続する場合には、CTやMRI検査を行う。出血した嚢胞はMRIではT2強調画像で高信号、T1強調画像で低信号を示す。嚢胞出血の多くは自然治癒あるいはベッド上安静にて改善する。貧血が進行し輸血が必要となるような場合には腎動脈塞栓術や外科的手術を考慮する。
6)尿路結石
 ADPKD患者の男性の21%,女性の13%に認められるとの報告がある。結石を合併する患者の腎容積は大きい。中高年での発症、疼痛、血尿などの症候に一般人との違いはないが、尿酸もしくは尿酸含有結石が50%を超えるほど高頻度に認められる。
診断:単純CTが最も有用である。超音波検査は診断能に劣る。合併症である尿路閉塞による水腎症、尿路拡張に対しては通常人と同じく対処する。
治療:水分摂取の指導、尿路結石に対してアロプリノールやクエン酸製剤の投与などを考慮する。非侵襲的治療として一般の尿路結石患者と同様に治療する。
7)その他
(1)肝・腎以外の嚢胞:肝・腎以外の臓器として膵臓・脾臓・甲状腺・くも膜などにも嚢胞が形成されるが、多くの場合は無症状である。
(2)心臓合併症(心臓弁膜症を含む):左室肥大、僧帽弁および大動脈弁閉鎖不全症がしばしば認められる。特にPKD1遺伝子異常では僧帽弁閉鎖不全症、僧帽弁逸脱症が有意に多い。
(3)大腸憩室:高率に合併し、多発性であることが多い。さらに透析患者では他疾患と比較して憩室炎の発症や憩室穿孔の頻度が高い。
(4)鼠径ヘルニア:鼠径ヘルニアをはじめとする腹部ヘルニアを高率に合併する(一般人の約5倍の頻度)。
(5)総胆管拡張症:高率に総胆管拡張を伴うことが報告されている。
8)妊娠
 男性、女性ともに健常人とほぼ同様であり不妊症をきたすことは少ない。通常、妊娠、出産を迎える20-30歳台では、血圧・腎機能・肝機能は正常であることが多く、健常人と同様の妊娠経過をたどることが多い。問題となるのは、(1)嚢胞により肝臓・腎臓が腫大し腹部に十分なスペースが確保できない、(2)腎障害、(3)高血圧による妊娠高血圧症の合併である。
9)合併症に対する特殊治療
(1)肝腎動脈塞栓術
A. 腎動脈塞栓術
 嚢胞を栄養する血流を遮断することにより嚢胞を縮小させる目的で行われているのが腎動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization (TAE))である。
 既に透析療法に導入され、尿量が500ml/日未満の症例が対象とされる。尿量が維持されていても、症状が強く患者本人が希望した場合は、治療後尿量が減ることの了解のもとに行われる。透析導入前であっても保存的治療にて腎嚢胞出血が遷延する場合は出血部位のみを選択的に行うこともある。
B. 肝動脈塞栓術
 肝嚢胞が集蔟している場合が良い適応である。超音波ガイド下で行う嚢胞液吸引と硬化剤注入療法、腹腔鏡下開窓術、外科的開窓術と肝部分切除術の併用、肝移植などの外科的治療の選択肢などを説明したうえで行われる。多量の腹水貯留症例や嚢胞の集蔟性のない症例では効果が乏しく、肝不全症例(総ビリルビン値が2.0mg/dl以上)では逆に急激に肝不全が進行するため注意が必要とされている。治療効果:嚢胞縮小効果は腎臓に行う場合に比べて乏しいが部分的な縮小効果は得られている。また肝嚢胞が縮小することによって二次的な残存肝臓の肥大効果が期待される。
(2)肝嚢胞開膜術・肝切除術
 胃が圧迫されて食事がとれない場合などの腹部圧迫症状がある場合や胆管が圧迫されることが予想される場合に肝嚢胞開膜術・肝切除術の適応となる。
(3)肝移植
 他の肝疾患と異なり、肝不全兆候は移植適応基準にならず、出血・反復性感染や肝腫大による症状(腹痛・歩行困難・大血管の圧迫・食事摂取不良・呼吸困難)をもとに日常生活活動(Activities of Daily Living:ADL)を総合的に判断して適応が決定される。移植施設への紹介が時期を失することが多いため、経時的な内科―移植外科連携によるADLならびに(皮下脂肪量・筋肉量・骨密度測定などによる)栄養状態の把握が至適移植時期決定につながる。手術では腫大した肝臓の摘出に難渋する。肝動脈塞栓術などの先行する治療が肝周囲の強固な癒着を招来し、移植手術をさらに難しくする可能性があることに留意する。移植後生存率は脳死・生体とも65-100%であり、術前状態、手術の難易度、得られる肝グラフトの質が影響する。術前から腎不全を合併している例では脳死ドナーによる肝腎同時移植が最善の治療法となる。
(4)腎移植
 先天性疾患であり腎移植後に再発することがないため、腎移植のよい適応である。生体腎移植の場合は、ドナーがADPKDに罹患しているかどうか慎重な評価が必要である。また脳動脈瘤がある場合は腎移植前に治療しておく方が良い。手術では腎臓が非常に大きい場合に片腎(稀に両腎)を摘出する。5年生着率は95%を超えており、他疾患との差はない。
7.予後、予後判定基準など
 腎障害の進行に関与する因子として、(1)男性、(2)PKD1遺伝子変異、(3)発症年齢、(4)高血圧・左室肥大の合併、(5)肝嚢胞の合併、(6)4回以上の妊娠歴、(7)肉眼的血尿、(8)尿路感染、(9)蛋白尿、(10)腎容積などがあげられる。
8.遺伝相談
 本邦では、ADPKDに関する遺伝相談が患者や対象者にどのような効果をもたらすかを検証した報告は少ない。遺伝相談は早期診断と密接に関連している。ADPKDでは腎機能障害をきたす以前から高血圧合併頻度が高いため、今後早期からの高血圧治療介入による腎機能保持や脳動脈瘤破裂予防の効果、さらには腎嚢胞拡大を抑制する根本的な新たな治療法を確立すれば、遺伝相談や早期診断を行う意義は大きくなる。以上の状況を考慮したうえで、患者本人や家族が希望した場合は遺伝相談の専門家によるカウンセリングが行われるべきである。

II ARPKD診療指針
1. 疾患概念と定義
 常染色体劣性多発性嚢胞腎(autosomal recessive polycystic kidney disease,ARPKD)は、PKHD1遺伝子変異により、新生児期から腎集合管の拡張による両側腎臓の腫大と胆管の異形成ならびに門脈周囲の線維化を含む肝臓の異常を認める遺伝性嚢胞性腎疾患である。遺伝形式は常染色体劣性である。
2. 診断
1) 一般的な診断方法
 実際的にはエコー所見が最も簡便で診断に有用である。嚢胞は通常小さく2mm未満でmicrocystと呼ばれる。嚢胞というより尿細管の拡張が主であり、びまん性に存在するためにでこぼことした低エコー像ではなく全体に高エコー輝度になるのが特徴的である。肉眼で確認できるものはmacrocystと呼ぶが、直径2cm以下が多い。表4にARPKDにおける典型的な腎超音波所見を示す。一部にADPKD様の腎嚢胞を示す症例も見られる。典型的エコー所見と同胞の本疾患既往があれば診断は確定的である。両親の近親婚も重要であるが、本邦では近親婚の頻度は少なく、複合ヘテロ変異による症例の存在もある。両親に腎嚢胞のないことも重要な確認事項である。ただし、ADPKDの腎嚢胞が遅れて出現する場合もあり、両親の年齢が30歳以降においてこの情報の意義が高まる。
表4 ARPKDにおける典型的な腎超音波像
パターン1: 著明な腎拡大、全体のエコー輝度上昇、皮質髄質境界が消失、中心エコーの消失、直径2cm以下の嚢胞がみられる。
パターン2: 著明な腎拡大、主に髄質のエコー輝度上昇、直径2cm以下の嚢胞がみられる。
パターン3: 中等度の腎拡大、髄質に限局したエコー輝度上昇、嚢胞はみられない。
年長児においては、嚢胞の髄質局在(すなわち、エコー輝度上昇)が著明である(パターン2と3)。
2) 除外診断を要する場合
 腎に多発性に嚢胞を認める疾患は多数存在し、そのいずれもが鑑別診断となる。
3) 遺伝子診断
 患者家系においては連鎖解析やハプロタイプ解析に基ずく間接的な遺伝子診断を含めて遺伝子診断は可能であるが、時間と費用の負担が大きいことや商用化されていないことなどから本邦ではほとんど行われていない。
4) 診断基準
 国際的によく使用されている診断基準の邦訳を表5に示す。1995年に日本腎臓学会が示したARPKDの診断基準もほぼ同じ内容である。
表5 ARPKDの診断基準
 1に加えて2.の一項目以上を認める場合にARPKDと診断する。
1. 皮髄境界が不明瞭で腫大し高輝度を示す典型的な超音波画像所見
2. a) 両親に腎嚢胞を認めない。特に30歳以上の場合
b) 臨床所見、生化学検査、画像検査などにより確認される肝線維症
c) ductal plateの異常を示す肝臓病理所見
d) 病理学的にARPKDと確認された同胞の存在
e) 両親の近親婚
5)原因遺伝子
  染色体6p21.1-p12に存在するPKHD1(polycystic kidney and hepatic disease1)である。多彩な臨床像にも関わらず単一遺伝子が原因であることが連鎖解析により示されている。その遺伝子産物はファイブロシスチン(fibrocystin)またはポリダクチン(polyductin)と呼ばれ、細胞膜を1回貫通するレセプター蛋白である。PKD1・PKD2遺伝子と同様に繊毛(cilia)に局在するため、ciliopathyの一つと考えられる。
3. 疫学
 10000-40000に一人である。PKHD1遺伝子変異の頻度は約70分の1と報告されている。
4. 臨床的特徴・病理
1) 遺伝について
 遺伝形式は常染色体劣性遺伝であり性別に関係ない。PKHD1変異遺伝子と正常遺伝子をもっている両親(ヘテロ接合体)から、両者の変異遺伝子を受け継ぐと発症する。同胞が本疾患であった場合、次子が本疾患である確率は4分の1である。両親からPKHD1変異遺伝子と正常遺伝子を受け継いだ場合には、両親と同じように発症せず保因者になる。ARPKDの家系において、罹患していない子が変異遺伝子の保因者である確率は3分の2である。
2) 臨床的特徴・管理の実際
 エコーで妊娠第2期に明らかになることもあるが、通常胎生30週までは明らかでない。大部分は新生児期に症候を示す。肺の低形成を伴う児はしばしば出生直後に死亡する(Potter症候群)。胎児エコーによりARPKDが疑われれば、出生後の管理を念頭に置いて、NICUへの入院が遅滞なく行えるように手配する。人工換気を含む文字通りの集中治療を要する。
 腎機能が廃絶している場合は両腎摘とともに腹膜透析カテーテルを挿入し、腹膜透析を施行する。腹膜透析がうまく行えない場合、血液透析も選択せざるをえない。
 乳児期およびそれ以降、腎の拡大あるいは肝脾腫による腹部膨満により発見されることもある。腎機能障害が軽度であっても大部分の症例に尿濃縮能の障害があり、脱水に注意が必要である。
 ARPKDの臨床所見に関するこれまでの文献のまとめを表6に示す。
表6 ARPKDの臨床所見
Guay-Woodford
観察期間(年):1990-2002(12)、患者数:166
診断年齢(%)
出生前:46、<1月:27、1-12月:11、>1年:16
低Na血症:26%
発達遅延:24%<2SD
腎機能:<GFR3%年齢相当、42%
ESRD(%)13%
高血圧(%)65%
門脈圧亢進15%
生存率(%)
1年79%、>3年75%(5年)、乳児死亡8%(1月以降)
Capisonda
観察期間(年):1990-2000(10)、患者数:31
診断年齢(%)
出生前:32、<1月:23、1-12月:19、>1年:26
低Na血症:10%
発達遅延:―
腎機能:GFR<80ml/min/1.73m2、51%
ESRD(%)16%
高血圧(%)65%
門脈圧亢進37%
生存率(%)
1年87%、>3年80%(9年)、乳児死亡13%
Zerres
観察期間(年):1987-1993(6)、患者数:115
診断年齢(%)
出生前:10、<1月:41、1-12月:23、>1年:26
低Na血症:6%
発達遅延:25%<2SD
腎機能:GFR<3%年齢相当、72%
ESRD(%)10%
高血圧(%)70%
門脈圧亢進46%
生存率(%)
1年94%(M)、82%(F)、>3年94%(M)、79%(F)(3年)、乳児死亡9%
Kaariainen
観察期間(年):1974-1983(9)、患者数:73
診断年齢(%)
出生前:―、<1月:72、1-12月:6、>1年:22
低Na血症:33%
発達遅延:6%<2.5SD
腎機能:GFR<90ml/min/1.73m2、82%
ESRD(%)―
高血圧(%)61%
門脈圧亢進11%
生存率(%)
1年19%、>3年 ―、乳児死亡22%
Gagnadoux
観察期間(年):1962-1986(24)、患者数:33
診断年齢(%)
出生前:―、<1月:33、1-12月:55(1-18月)、>1年:12(6-11年)
低Na血症:NA
発達遅延:18%<4SD
腎機能:GFR<80ml/min/1.73m2、42%
ESRD(%)21
高血圧(%)76%
門脈圧亢進39%
生存率(%)
1年91%、>3年 ―、乳児死亡9%
Roy
観察期間(年):1950-1993(43)、患者数:52
診断年齢(%)
出生前:―、<1月:―、1-12月:85、>1年:5
低Na血症:NA
発達遅延:NA
腎機能:―
ESRD(%)33
高血圧(%)60%
門脈圧亢進23%
生存率(%)
1年NA、>3年 ―、乳児死亡26%
3) 病理
 ARPKDにおいては、集合管の拡張と、胆管の異形成と門脈の線維化を含む種々の程度の肝の異常をその特徴とする。集合管上皮細胞は過形成を示し、異形成はない。胎生早期に一過性に近位尿細管に嚢胞を認めるが、生後は確認できなくなる。
5. 合併症とその対策
1) 高血圧
 高血圧は乳児およびそれ以降の小児期にしばしば見られ、唯一の症候のこともある。腎機能が正常な患者にもみられ、最終的にはほとんどすべての小児患者に認める。
2) 先天性肝線維症
 拡張した肝内胆管が嚢胞様にみえるが、肝嚢胞は認めない。生命予後の改善と腎不全の管理の進歩により、門脈圧亢進症が問題となる症例が増加している。食道静脈瘤、肝脾腫、などの徴候に注意が必要で食道静脈瘤破裂、脾機能亢進症による血小板減少、貧血、白血球減少をきたす。エコーによる観察が非侵襲的で有用である。細菌性胆管炎が致命的となりえる合併症の一つであり、生後数週の患児の報告もある。肝線維症の管理は関連専門医師と連携をとりながらの管理が望ましい。
3) 肺低形成
 種々の程度の肺低形成を伴い、そのため最重症ではしばしば出生直後に死亡する(Potter症候群)。
6. 治療
1) 根本的治療
 疾患特異的治療は確立されておらず、個々の症例に応じた支持・対症療法が中心となる。小児、特に乳幼児の末期腎不全管理が必要なことが多くしばしば困難である。
2) 進行を抑制する治療
(1) 降圧療法
 高血圧の治療が重要で、ACEIやARBの効果が期待できるが、小児、特に新生児・乳児・幼児における安全性は確立しておらず、リスクとのバランスを考慮した上で使用する。Ca-拮抗薬も降圧効果が期待でき必要に応じて使用する。
(2) 飲水の励行
 病態的には有効と考えられるが、腎不全が存在する小児では実施しにくい。
3) 合併症に対する特殊治療
(1) 腎移植:末期腎不全の症例では、可能であれば早期の腎移植が望ましい。
(2) 肝移植:必要により肝移植が適応となる。
7. 予後
 重症肺低形成を伴う新生児以外は長期生存が可能である。海外では生後1か月間生存した症例について、生後1年の腎生存率が86%、15年で67%とされている。1990年以降に出生した153例における解析では、生後1月間の死亡率が最も高く、全死亡症例36例中21例(58%)がこの期間に死亡している。生後早期の乳児における疾患管理の改善と末期腎不全治療の進歩により、さらに今後予後が改善することが期待される。
8. 遺伝相談
ARPKDの診断が確定あるいは推定される場合、遺伝相談の対象となる。

休診のお知らせ

6月13日(月)、6月14日(火)を都合により、休診とさせて頂きます。地域の皆様にはご迷惑をおかけ致しますが、何卒、よろしくお願い申し上げます。

ネフローゼ症候群診療指針ダイジェスト版

ネフローゼ症候群診療指針ダイジェスト版
厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班
難治性ネフローゼ症候群分科会

I ネフローゼ症候群の診断基準・治療効果判定基準
ネフローゼ症候群は糸球体からの大量のアルブミンの漏出を原因とする低蛋白血症に浮腫、高LDLコレステロール血症を合併する症候群である。ネフローゼ症候群の診断基準(表1)を改訂するとともに、尿蛋白量を数値化した予後判定基準を設け(表2)、わが国で統一した基準で診療し、臨床研究にも応用できるように診療指針を改訂した。また、治療反応により難治性ネフローゼ症候群を分類し、表3にまとめた。診断・治療効果判定に使用する尿蛋白は1日蓄尿して定量することが望ましいが、外来患者で蓄尿ができない場合や、高齢者などで正確な蓄尿ができない場合もあり、代用する指標として、随時尿の尿蛋白/尿クレアチニン(g/gCr)比が1日尿蛋白量の目安になる。ネフローゼ症候群の寛解後の経過観察は尿試験紙を使用して簡易判定ができるように、試験紙法における簡易判定基準も併記した。
治療効果の判定時期は、1か月目、6か月目に行う。ネフローゼ症候群に対する初期治療で十分量のステロイド治療により効果がみられる時期である4週間目(1か月目)で治療方針の変更がおこることから1か月目の判定を重要視した。6か月の時点で、十分量のステロイドと免疫抑制薬を使用しても尿蛋白が減少しない場合を難治性ネフローゼ症候群と定義する。
完全寛解は尿蛋白0.3g/日未満とし、0.3g/gCr未満に相当する。不完全寛解I型以下(1g/日未満)に尿蛋白を減少させることは、予後改善につながり、治療の目標である。
成人においてネフローゼ症候群の治療を継続して長期にわたって行う必要がある場合があり、このような長期にわたりステロイドと免疫抑制薬による治療が必要なネフローゼ症候群の予後、ならびに副作用について実態調査が必要である。治療が2年以上にわたり継続して行われるようなネフローゼ症候群患者を長期治療依存型ネフローゼ症候群と新たに定義した。
表1 成人ネフローゼ症候群の診断基準
(平成22年度厚生労働省難治性疾患克服事業進行性腎障害に関する調査研究班)
1. 蛋白尿:3.5g/日以上が持続する(随時尿において尿蛋白/尿クレアチニン比が3.5g/gCr以上の場合もこれに準ずる)。
2. 低アルブミン血症:血清アルブミン値3.0g/dl以下、血清総蛋白量6.0g/dl以下も参考になる。
3. 浮腫
4. 脂質異常症(高LDLコレステロール血症)
注1) 上記の尿蛋白量、低アルブミン血症(低蛋白血症)の両所見を認めることが本症候群の診断の必須条件である。
注2) 浮腫は本症候群の必須条件ではないが、重要な所見である。
注3) 脂質異常症は本症候群の必須条件ではない。
注4) 卵円形脂肪体は本症候群の診断の参考になる。

表2 ネフローゼ症候群の治療判定基準
(平成22年度厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班)
治療効果の判定は治療開始後1か月、6か月の尿蛋白定量出行う。
完全寛解:尿蛋白<0.3g/日
不完全寛解I型:0.3g/日<尿蛋白<1.0g/日
不完全寛解II型:1.0g/日<尿蛋白<3.5g/日
無効:尿蛋白>3.5g/日
注1) ネフローゼ症候群の診断・治療効果の判定は24時間蓄尿により判断すべきであるが、蓄尿ができない場合には、随時尿の尿蛋白/尿クレアチニン比(g/gCr)を使用してもよい。
注2) 6か月の時点で完全寛解、不完全寛解I型の判定には、原則として臨床症状および血清蛋白の改善を含める。
注3) 再発は完全寛解から、尿蛋白1g/日(1g/gCr)以上、または(2+)以上の尿蛋白が2-3回持続する場合とする。
注4) 欧米においては、部分寛解(partial remission)として尿蛋白の50%以上の減少と定義することもあるが、日本の判定基準には含めない。

表3 ネフローゼ症候群の治療反応による分類
(平成22年度厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班)
ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群
十分量のステロイドのみで治療して1か月後の判定で完全寛解または不完全寛解I型に至らない場合とする。
難治性ネフローゼ症候群
ステロイドと免疫抑制薬を含む種々の治療を6か月行っても、完全寛解または不完全寛解I型に至らない場合とする。
ステロイド依存性ネフローゼ症候群
ステロイドを減量または中止後再発を2回以上繰り返すため、ステロイドを中止できない場合とする。
頻回再発型ネフローゼ症候群
6か月間に2回以上再発する場合とする。
長期治療依存型ネフローゼ症候群
2年間以上継続してステロイド、免疫抑制薬などで治療されている場合とする。

II ネフローゼ症候群の疫学
1. 難治性ネフローゼ症候群の発症数
新規発症のネフローゼ症候群は年間3756-4578例と推定され、その内難治性ネフローゼ症候群は1000-1200症例と推定されている。
2. ネフローゼ症候群の病理分類
日本腎生検レジストリーの1197例における病因分類(図1A)は、原発性(一次性)糸球体疾患が61.0%と最も多く、次いで糖尿病性腎症10.7%、IgA腎症5.2%、ループス腎炎が4.5%を占めた。このうち一次性糸球体疾患732例の病型分類(図1B)では、微小糸球体変化(微小変化型ネフローゼ)が38.7%、膜性腎症37.8%、巣状分節性糸球体硬化症11.1%、膜性増殖性糸球体腎炎(I型、III型)6.6%、メサンギウム増殖性糸球体腎炎2.9%、半月体形成性糸球体腎炎1.4%であった。
3. ネフローゼ症候群における年齢層別の病型頻度
いずれの年齢層別でも一次性糸球体疾患が主体であったが、20-65歳未満で二次性糸球体疾患の比率が増加した。特に15-65歳未満でループス腎炎(12.1-5.4%)、40歳以後に糖尿病性腎症(15.6-9.6%)とアミロイド腎症(7.2-4.3%)の占める割合が増加していた。さらに、一次性疾患の病型分類(図2)では、40歳未満では微小糸球体変化が77.1-67.5%を占めており、40歳以後でも16.0%の頻度で登録されていた。次いで40歳未満では巣状分節性糸球体硬化症が17.5-7.1%を占めていた。一方、膜性腎症は20歳以後に登録され、40歳以後では58.2-54.6%の頻度であった。膜性増殖性糸球体腎炎(I型、III型)はどの年代でも10.8-2.1%であった。また、IgA腎症を含むメサンギウム増殖性も各年齢層で6.0-0.9%で登録されていた。
図1 ネフローゼ症候群全例(1197例)の病因分類(A)と一次性ネフローゼ症候群(732例)の病型分類(B)
(A)
A. 原発性(一次性)糸球体疾患
B. IgA腎症
C. 糖尿病性腎症
D. ループス腎炎
E. アミロイド腎症
F. 紫斑病性腎炎
G. 感染症関連腎症
H. 高血圧性腎硬化症
I. MPO-ANCA陽性腎炎
J. PR3-ANCA陽性腎炎
K. アルポート症候群
L. 血栓性微小血管症
M. 移植腎
N. その他

(B)
A. 微小糸球体変化
B. 膜性腎症
C. 膜性増殖性糸球体腎炎(I型、III型)
D. 半月体形成性壊死性糸球体腎炎
F. メサンギウム増殖性糸球体腎炎
G. 巣状分節性糸球体硬化症
H. 硬化性糸球体腎炎
I. その他

4. ネフローゼ症候群の予後
ネフローゼ症候群の予後に関しては全国の85医療施設へのアンケート調査で、昭和50年から平成5年に発症した成人の膜性腎症と巣状分節性糸球体硬化症の腎生存率(末期腎不全に至らない割合)が報告されている。膜性腎症1008例の腎生存率(透析非導入率)は10年で89%、15年で80%、20年で59%である。膜性腎症の長期予後は不良である。巣状糸球体硬化症278例の腎生存率(透析非導入率)は10年で85.3%、15年で60.1%、20年で33.5%と長期予後は膜性腎症よりも不良である。

III 浮腫の治療および腎保護を目的とした治療
(1)浮腫に対する治療
1. 浮腫に対する治療を行う際には有効循環血漿量を評価することが大切である。
2. 浮腫の治療の本質はNaバランスを是正すること、つまりNa摂取を制限することとNa排泄を促進することである。
3. 浮腫の軽減には利尿薬が有効である。ループ利尿薬が中心となるが、効果不十分な場合はチアジド系利尿薬を併用する。高カリウム血症のない症例では、アルドステロン拮抗薬の併用も検討される。
4. アルブミン製剤の投与は慎重であるべきで、単に浮腫軽減の目的で使用すべきではない。アルブミン濃度が2.5g/dl以下で、膠質浸透圧の低下に起因する病態があり、他の方法では管理不能になった場合には、アルブミン製剤の投与が検討される。
(2)腎保護を目的としたその他の薬物療法
1. 尿蛋白が持続するネフローゼ症候群に対しては、ACE阻害薬(ACEI)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の使用が推奨される。高カリウム血症に注意した上で、アルドステロン拮抗薬の併用も検討される。
2. 長期にわたり高LDL血症が持続する場合には、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の使用が推奨される。
(3)腎保護を目的とした生活指導
1. 塩分制限が推奨される。
2. 低蛋白食の有効性に関しては十分なエビデンスはないが、少なくとも高蛋白食は推奨されない。
3. 蛋白異化を抑えるために十分なエネルギー摂取が推奨される。
4. 運動制限の有効性を支持する臨床的なエビデンスはない。
5. 血栓予防や長期的予後を考えた場合には、安静を強調するよりも適度な運動が推奨される。

IV ネフローゼ症候群の合併症と対策
(1) ネフローゼ症候群における心血管障害
1. 難治性ネフローゼ症候群は、心血管イベント発症の高リスク群として、特に高齢者には予防対策(血圧管理、循環器スクリーニング、適正な薬物治療)が推奨される。
2. 脂質代謝異常が持続すれば、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)を投与することが推奨されるが、横紋筋融解症の発症やシクロスポリンとの併用療法には細心の注意を払う。
(2) ネフローゼ症候群における感染症
1. 難治性ネフローゼ症候群では、IgGや補体成分の低下がみられ、潜在的に液性免疫低下が存在することに加え、T細胞系の免疫抑制もみられるなど、感染症の発症リスクが高い。
2. ネフローゼ症候群の患者の患者では肺炎球菌ワクチンの接種が推奨される。
3. 1日20mg以上のプレドニゾロンや免疫抑制薬を長期にわたり使用する場合には、顕著な細胞性免疫低下が生じるため、ニューモシスチス肺炎に対する予防的投薬を考慮する。
4. 適宜、日和見感染のモニタリングを行いながら臨床症候に留意して早期診断に基づく迅速な治療が必要である。
5. 診療にかかわる医療従事者は「手洗い」など感染対策を遵守し感染予防に努めるとともに、感染予防についての患者教育を行うことが重要である。
(3) ネフローゼ症候群における血栓症
1. ネフローゼ症候群では発症から6か月以内に静脈血栓形成のリスクが高く、血清アルブミン値が2.0g/dl未満になればさらに血栓形成のリスクが高まる。
2. ネフローゼ症候群に伴う血栓形成のリスクと抗凝固療法に伴う出血の危険性について各患者について十分な評価を行う。
3. 過去に静脈血栓症の既往があれば、ワルファリンによる予防的抗凝固療法を考慮する。
4. 静脈血栓由来の肺塞栓症が発症すれば、直ちにヘパリンを投与しAPTTを2.0〜2.5倍に延長させ、血栓の状況を確認しながらワルファリン内服に移行し、PT-INRを2.0(1.5-2.5)とするように抗凝固療法を行う。
(4) ネフローゼ症候群における悪性腫瘍
1. 成人のネフローゼ症候群では悪性腫瘍のの合併症が高いことが知られ、特に本邦では消化器系悪性腫瘍の頻度が高い。
2. ネフローゼ症候群(特に膜性腎症)を診断した場合には、悪性腫瘍合併の可能性も考慮すべきである。
3. 生命予後から考えて悪性腫瘍の治療を優先すべきであるが、外科的切徐を含む抗癌治療によってもネフローゼ症候群は寛解しない症例も多い。
4. 免疫抑制療法による発癌リスクについて、十分な注意を払う。
(5) ネフローゼ症候群における急性腎不全
1. ネフローゼ症候群に伴う低アルブミン血症による低有効循環血漿量の低下が急性腎前性腎不全を引き起こすことがあるので、適切な輸液・循環管理は重要である。
2. 感染症(特に敗血症)や腎静脈血栓症に付随する急性腎不全では、速やかに原因を除去する治療が推奨される。
3. RAS阻害薬は急性腎不全が発症した際には、一旦中止することが望ましい。
4. ネフローゼ症候群に合併する重症の急性腎不全では、積極的に血液透析も考慮する。

V 微小変化型ネフローゼ症候群の治療指針
(1) 初期治療
プレドニゾロン0.8-1mg/kg/日(最大60mg)相当で開始し、寛解後1-2週間持続する。完全寛解後は2-4週毎に5-10mg/日ずつ漸減する。5-10mgに達したら再発をきたさない最小量で1-2年程度維持し、漸減中止する。4週後に完全寛解に至らない場合は初回腎生検組織の再評価を行い、必要ならば再生検も考慮する。
(2) 再発時の治療
プレドニゾロン20-30mg/日もしくは初期投与量を投与する。
頻回再発型、ステロイド依存性、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群
免疫抑制薬(シクロスポリン1.5-3.0mg/kg/日、またはミゾリビン150mg/日、または、シクロフォスファミド50-100mg/日)を追加投与する。
(3) 補助療法
1. 必要に応じて、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)や抗凝固薬を使用する。
2. 高血圧を呈する症例ではアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬の使用を考慮する。

VI 巣状糸球体硬化症の治療指針
(1) 初期治療
プレドニゾロン(PSK)1mg/kg/日(最大60mg/日)相当を初期投与量としてステロイド治療を行う(4週間)。重症例ではステロイドパルス療法も考慮される。寛解導入後は微小変化型ネフローゼ症候群に順じて減量する。
(2) ステロイド抵抗性
4週以上の治療にもかかわらず、完全寛解あるいは不完全寛解I型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合にはステロイド抵抗性として以下の治療を考慮する。
1) 必要に応じてステロイドパルス療法3日間1クールを3クールまで行う。
2) 免疫療法として、シクロスポリン2.0-3.0mg/kg/日(分1または分2食前経口;副作用がない限り6か月間使用し効果判定C2:600-900ng/ml;完全寛解または不完全寛解I型なら少なくても1年は使用)、またはミゾリビン150mg/日(分1-分3食後経口;副作用がない限り2年間使用し効果を判定)、または、シクロフォスファミド50-100mg/日(分1または分2経口食後;副作用がない限り3か月間使用可能)の併用を考慮する。
免疫療法は副作用が出現したり無効な場合、他の免疫抑制薬を併用または補助療法を検討。
(3) 補助療法
1. 高血圧を呈する症例では積極的に降圧薬を使用する。特に第一選択薬としてACEIやARBの使用を考慮する。
2. 脂質異常症に対してHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)やエゼチミブの投与を考慮する。
3. 高LDL血症を伴う難治性ネフローゼ症候群に対してはLDLアフェレーシス(3か月以内に12回まで)を考慮する。
4. 必要に応じ、血栓症予防を期待して抗凝固薬を併用する。抗凝固療法;ワルファリン1-5mg経口、PT-INR1.3-1.5に調整(深部静脈血栓の恐れがある場合)。

VII 膜性腎症の治療指針
(1)初期治療
プレドニゾロン(PSL)0.6-0.8mg/kg/日相当を投与する。
(2)ステロイド抵抗性
ステロイドで4週以上治療しても、完全寛解あるいは不完全寛解I型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合はステロイド抵抗性として免疫抑制薬、シクロスポリン2.0-3.0mg/kg/日(分1または分2食前経口;副作用がない限り6か月間使用し効果判定C2:600-900ng/ml)、またはミゾリビン150mg/日(分1-分3食後経口;副作用がない限り2年間使用し効果を判定)、またはシクロフォスファミド50-100mg/日(分1-分2食後経口;副作用がない限り3か月間使用可能)の併用を考慮する。副作用が出現したり無効な場合、他の免疫抑制薬併用または補助療法を検討。
(3)補助療法
1. 高血圧を呈する症例ではACEIやARBの併用を考慮する。高K血症に注意。
2. 脂質異常症に対して、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)やエゼチミブの投与を考慮する。血清CKの上昇に注意。
3. 動静脈血栓症の恐れに対しては抗凝固薬を考慮する。ワルファリン1-5mg経口、PT-INR1.3-1.5に調整(深部静脈血栓症の恐れがある場合)

免疫抑制療法:ステロイドには上記の免疫抑制薬を併用。ステロイドは少なくとも6か月をかけて減量。

補助療法:ステロイドや免疫抑制薬の使用の有無にかかわらず、適応がある場合は用途に応じ使用。

VIII 膜性増殖性糸球体腎炎
1. 膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は稀な疾患であるが、腎生検の約6%を占める。
2. MPGN病変はさまざまな疾患の続発性病変としてみられる。
3. 成人例では治療に関するエビデンスは確立していない。

腎生検でMPGN
MPGN病変を呈する基礎疾患の検索;補体異常症、自己免疫疾患(SLE,Sjogren症候群など)、感染症(B型、C型肝炎ウイルスなど)、TMA(TTS/HUSなど)、異常蛋白血症、悪性腫瘍(白血病、リンパ腫など)など。あり;原疾患の治療。

特発性MPGN;メチルプレドニゾロンパルスあるいはプレドニゾロン経口1mg/kg/日、漸減しながら2年間投与。+アスピリン、+ジピリダモール、他に*ミコフェノール酸モフェティル、シクロフォスファミドなどが試みられることがある。
*ミコフェノール酸モフェチル:
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ミコフェノール酸モフェチル(Mycophenolate mofetil)は免疫抑制薬のひとつ。細胞の核酸(プリン体)合成を阻害する代謝拮抗薬に属する。
日本名 (E)-6-(1,3-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-6-メトキシ-7-メチル-3-オキソ-5-イソベンゾフラニル)-4-メチルヘキセン酸 2-(4-モルフォリニル)エチルエステル
英名(IUPAC名)2-(4-morpholinyl)ethyl (E)-6-(1,3-dihydro-4-hydroxy-6-methoxy-7-methyl-3-oxo-5-isobenzofuranyl)-4-methyl-4-hexenoate
発見:ミコフェノール酸は1896年にPenicillium属の発酵生産物の一つとして発見され、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、免疫抑制作用を持つことが明らかにされてきた。米国シンテックス社はミコフェノール酸体内動態を改善する目的で、プロドラックであるミコフェノール酸モフェチルRS-61443を開発した。ミコフェノール酸モフェチルの2-モルフォリノエチルエステルは体内で加水分解され、ミコフェノール酸へと変じ作用をあらわす。
作用機序;生体内でのプリン代謝はde novo系とsalvage系の二系統の生合成経路が存在することが知られており、ミコフェノール酸はde novo系律速酵素であるイノシンモノフォスフェイト合成酵素を可逆的かつ特異的に阻害する。リンパ球でのプリン代謝はde novo系生合成に強く依存しているために、ミコフェノール酸の作用により細胞のグアノシンヌクレチドプールが枯渇することで、活性化Tリンパ球およびBリンパ球に対して代謝抑制効果が強く現れる。グアノシンヌクレチドプールの枯渇はDNA合成を抑制するため、リンパ球は細胞周期の細胞分裂期であるG1期からS期で増殖を停止する。
申請;日本国においては日本ロシュ社が腎移植後の難治性拒絶反応の治療を効能として輸入申請を行い、1994年7月に厚生労働省が希少病用医薬品指定を与えた。
副作用;1990年から1991年にかけて米国で実施された腎移植後の免疫抑制を目的とした第I/II相臨床試験では77例中64例で移植腎が生着した(生着率83.1%)一方53例(68.8%)に副作用が見られた。おもな副作用は次の通りであった。・消化器症状―下痢(37.7%)、嘔吐(18.2%)・血液障害―白血球減少(22.1%)、貧血(23.4%)。臨床試験において同副作用は投与中止後速やかに回復した。
1990年から1991年にかけて米国で実施された腎移植患後の免疫抑制を目的にした第I/II相臨床試験では77例中64例で移植腎が生着した(生着率83.1%)一方53例(68.8%)に副作用が見られた。おもな副作用は次の通りであった。
• 消化管症状 - 下痢 (37.7%)、嘔吐 (18.2%)
• 血液障害 - 白血球減少 (22.1%)、貧血 (23.4%)
臨床試験において同副作用は投与中止後速やかに回復した。薬品;セルセプトカプセル250

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院長
神戸市垂水区の佐々木内科医院では「あなたの腎臓を守りたい。地域のホームドクターへ」をモットーに腎臓専門医として地域のみな様の健康を守りたいと考えています。

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